13坪の本屋の奇跡

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読み終わるのが惜しくって残りページを意識してしまう本との出会いは数年に一度あるかないかだと思うのだけれど、これはまさにそんな僥倖の一冊です。

 

サブタイトルの「闘い、そしてつながる」隆祥館書店の70年のうち自分が知ってるのは、この町に引っ越してきてからの数年なんだけれども、自分の出勤時間が隆祥館書店の開店後まもない時間なこともあり、自転車で駆け抜けながら静かに本を並べる故・善明さんの姿を見ることがあった。

 

その人生を、こんな風に追体験するように胸を熱くして知ることができたのは「オシムの言葉」というベストセラーを世に出した著者の木村元彦さんのすごい文章力と取材力による部分も大きいけれど、何よりも善明さんとその後を継いだ娘の二村知子さんが生み出してきた街に根を張った長年の活動とその歴史だ。

 

なぜ小さい書店がどんどん町から消えていくのか?

なぜ前と比べて異常なまでにヘイト本が書店に並んでいるのか?

それを生み出す理不尽なシステムへの怒りとそれと戦う善明さんや、周りの本を愛する人の群像に本好きの端くれとして、時に反省しながら、心底エールを送りながら読んだ一章。

 

「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも全部僕のせいですわ」が定番のセリフがだったという善明さんの人柄に引き込まれ(なぜなら私の父親も全く同じことをよく言うw)、そのくせ小さい書店の権利と利益のためなら私利私欲を超えて奔走するまっすぐさにほれ込んでしまう。

後を継いだ知子さんの覚悟と決意、つながっていく人の輪の温かさに、こんな本屋のある町で暮らせる幸せを思う。

 

2部は「作家と読者のつながり」で呼んだ人の講演録と質疑応答がそのまま掲載されている。

一人ひとりの講演録がそのまま一冊の本にしてもよいほどの中身で読み応え十分なのだけれど、その中でも好きなのは2012年に反原発の科学者・小出裕章さんを招いた講演会のエピソードだ。

私も行けなかったけれどこのフライヤーを当時、見た記憶がある。

会場が「関西電力上本町変電所ホール」なのに驚いたのだけれど、その後日談がこの本には載っている。

後日、店に来た町会長さんが、

「あんたんとこがイベントやりはった日なぁ、関電の社長室の人がうちとこに飛んできたんよ。ほんで「ああいう講演会で使われるのは困る」言いはるから、うちも言い返したんや。「それほんまのことやんか。あんたらも一緒に聞いて勉強したらええやんか」って」

もう、とにかく、この本に登場する「書く人」も「読む人」も「集う人」もめちゃくちゃ地に足ついて格好がいいのだ。

こんなに大阪庶民のカッコよいエキスが満載の本も珍しいです。

一人でも多くの人の手に届きますように!