正直、私はエッセイというジャンルをなめてたなと思う。
こんなにも距離的にも時間的にも広がりをもち自分を遠くに運んでくれる一冊をかなり長い間本棚で眠らせていたことを後悔しつつ、今だから読めてよかったのかもしれないと思う。
色んな場面に話が飛ぶのに章の終わりにすべてのことが連なって納得と共感に包まれる独特の文体。
その文体同様に自分の意識が、これまで出会った人や景色に自由に飛びながら、静かな気持ちで着地する心地よさ!
なんにも説教臭くないのに、信仰や道徳や文化を認め合う寛容さが、日常のなかで実践されることがどれだけ美しく、稀有なものかを「ウェスト夫人」という人物と彼女につながる人を通して伝えてくれる、それこそ「稀有な」エッセイでした。
これを機に、梨木香歩さんの他の作品も読んでみたくなりました。
そして、イギリスの田舎に行ってみたくなりました。
あとプリンスエドワード島のあるカナダにも。
物理的に身体の移動が不可能な今こそ心をオープンに世界中に飛ばせるこの本は旬だと思います。