前回の投稿から普通に一ヵ月空いてしまった…。
ということで、久々にご紹介するのはこちらの鳥飼さんの新書です。
話すためのコツと言う意味でも色々と参考になる実用書です(たとえば失礼にならない反論の仕方とか)が、さすがと唸るのはやっぱり興味を掻き立てるエピソードの数々。
一つだけ紹介すると、例えばオバマ大統領の広島訪問時のスピーチの一文を各紙がどう和訳したかの箇所はすごく面白かった。
2016年に現職大統領として初めて広島を訪問したオバマ大統領は「謝罪をしない」ことは事前に明らかにされていたそうです。
だからこそスピーチでもアメリカが原爆を投下した、とは言わない。
オバマ大統領らしい詩的なこんな一文です。
Seventy-one years ago, on a bright cloudless morning, death fell from the sky and the world was changed.
「71年前の朝、雲一つない晴れ渡った空から死が降ってきて、世界は変わってしまった(私の拙訳です)」
それを各紙と鳥飼さん本人がそれぞれ訳しているわけですが、鳥飼さんはまずfellという単語を「落ちた」「振った」「降りた」のどれにするかで異なるニュアンスを指摘します。
「死が空から降り」は、何か自然現象でもあるかのような表現で、その意味では発言者の意図を最も忠実に反映しているのかもしれません。「死が空から落ちてきた」と私が訳したのは、原爆が落とされたことを踏まえており共同通信社の日本語訳と同じです。(中略)どういう日本語を選ぶと、原爆を投下された側の思いが滲み出るか、いや、そのような感情は交えずに、アメリカ大統領の意図の沿い原文に忠実に訳すべきか、という判断を翻訳者はしなければなりません。
(本書122ページより)
もちろん和訳に正解はありませんが、簡単な単語程侮れないし、軽く扱ってはいけないと痛感する一文でした。
もうひとつ鳥飼さんが注目した単語も中学一年生で習う単語=changeです。
the world was changedと受け身になっている。
The world changed.「世界は変わった」でも文法的には間違いではない。
でも受け身にすることでwas changed by の後ろに本来続くであろう(あえてオバマ大統領は言わなかった)原爆を落としたアメリカの存在が見えてくる。
だとしたら日本語にするとき、「世界は変わった」でいいのか?
(だから英語ってややこしい)といううめきも聞こえてきそうな話ですが、私に言わせればだから英語って面白い。
私同様に英語沼の心地よさを知っている方にはお勧めの一冊です。
あ、以前にも鳥飼さんの新書を紹介してました。
こちらもおススメです↓