今年の夏は実家の母のものをかなり断捨離したのだけれど、気になる本は持ち帰って来ていた。
私は運命論者ではないけれど本とはなんとなく出会うタイミングというか縁みたいなものがあるなと常々思っている。
この本も長女が夏休みの宿題で「アンネ・フランクとオードリー・ヘップバーン」について調べなかったら読み始めなかったかもしれない。
アンネ・フランクと著者の父親の小林司氏は同じ1929年に生まれている(娘に教えてもらって知ったけれどオードリー・ヘップバーンも)。
父親の日記とアンネの日記、そして著者がアンネの移動した地域をたどるドイツ・オランダ・ポーランドへの17日間の旅の日記。
三つの日記を著者は無頓着に思えるような浮遊感で、でも実は膨大な知識と史実も織り交ぜながら緻密に編み上げていく。
日本とオランダで司青年とアンネが終戦直前のあの時代に何を感じていたかがダイレクトに迫ってくる。
1944年の4月11日にアンネは恋人のピーターとラジオでモーツァルトのコンサートを聴いて
とりわけ気に入ったのは”アイネ・クライネ・ナハトムジーク”。美しい音楽を聴くと、きまって心のうちに感動がうずき、とてもおとなしく部屋の中になんか座っていられない程になります。
と書いている。
翌年の1945年8月1日水曜日には日本のラジオで“特攻機を作る学童達”という録音の前にアイネ・クライネ・ナハトムジークが流されている。
その日の朝、父は金沢の家族に別れを告げ、井波の飛行機工場へと勤労動員されている。【223ページより引用】
恋をしたり音楽に心を震わせたり、成長したい学びたいと思いながらあの時代を生きていた、若いふたりの日記から目が離せなくなる。
同時に自分と同世代の著者のベルリンの壁崩壊や昭和天皇崩御の記憶はそのまま自分の記憶を呼び覚ましてくれる。
私たちはあの戦争を知っている世代から直接話を聞ける最後の世代とずっと言われてきたしそれは事実だ。
ここから先の世代に伝えていくには個人的な体験を大きな歴史の中で結びなおすような、こんな本が必要なのだと思う。