いろんな気持ちが湧いてきて、懐かしい記憶が蘇ってくる本だった。
彼女がロシア語に出会い、20歳から暮らしたロシアの大地。そこで出会う人たちは優しくて、悲しくて、愛おしい。
かつてアメリカで暮らした日々で、人との距離感が楽だったことを思い出す。
思ったことをそのまま伝えても、相手は外国人への好奇心と寛大さで面白がってくれる。
会話をつなげるために唐突に挟まれる私のトンチンカンな質問すらみんな丁寧に答えてくれた。
出会った人がとても率直に話してくれたのは私が自分と違う社会で生きてきたことへの安心感だったのかもしれないし、話す言葉の拙さが私の人柄まで素朴で無害に見せたのかもしれない。
でもとにかく、ひっきりなしに人と会っておしゃべりをし、読みたいものを読んでいたあの日々を思い出すと、いつも温かい気持ちになる。
私が過ごしたのはアメリカで、著者が過ごしたのはロシアだ。
それなのに同じだと思った。
どの街にも人が暮らし、詩や文学や恋やゴシップがあり、言葉で人とつながり、別れる。
詩や文学は繊細で柔らかさ一辺倒な物だと思われがちだけど、それが他者との関係を作り、測り、自分が立つ強固な地盤になることもある。
大好きな教授の授業を聞き漏らさないために、速記までして逐一ノートを取ったこの人だから書けた一冊だと思う。
しっかり学び、どっしり読んできたからこそ、こんなに心に近い場所で言葉を紡げるのだと思う。
嬉しいことに米原万里さんや須賀敦子さんと違って彼女は私より若い上に、同時代を生きている。
これからもこの人の言葉を読んでいきたい。