一冊の感想をまとめて書くことが乱暴に思えるほど、須賀敦子さんは慎重に言葉を選び、確固たる文体で文章を綴る。
この人の文章を一部分だけ切り取る無粋さは知りつつも、数行で人を世界に引き込む力がある書き手は稀有だ。
最近出会った「遠い朝の本たち」
「本が自由に読めるようになったのは、もう自分に詩を書くというような日が来るのをすっかりあきらめた後だった。
戦争が小さいときからずっと自分たちの周囲にあったので、いつのころからか、将来の計画を真剣に立てないのがくせになったまま、私は十六歳になっていた。」
そしてこちらの「本に読まれて」から。
「1920年代から30年代にかけての時代は、わたしにとってはなつかしいどころか、戦争というタマゴを抱きつづけたバカなメンドリにしかみえなかったので、この時代の産物にはおしなべて背を向けていたかった。」
青春を戦争に翻弄された世代の人の、背筋のすっと伸びた嫌戦の文章だと思う。
彼女の本はどれも装丁が美しい。
ずっと本棚にさしておき、折に触れて開きたくなる本を作ったのだなと思う。