菅内閣は学術会議がこの人を推薦したのに拒否しました。
そんなことが無ければ縁のなかった一冊ですが、私は我ながら良い性格をしているので、お国がダメと言うと気になるたちです。
内容の大筋は横着して帯の写真を添付しますが、冒頭から脳みそをザクザク耕される感じがすごい一冊でした。
漠然と曲がりなりにも民主主義の国で生きていると思ってきた私にとって「民主主義っていったい何か?」を改めて問われる経験は初めてでした。
2500年の民主主義の歴史を、古代ギリシアまで遡って丁寧に紡いでいくこの本は集中力が一回切れたらもうアカンと、襟を正して途中から蛍光ペンで気になったところに線を引きつつ読みました。
そして紹介されている人の中で私の一番の推しはフランス貴族出身のトクヴィル(写真も109ページに載っていますが結構イケメン)。
1831年、20代の彼は「一定の警戒心をもって」アメリカにやってきます。
(自分たちのような貴族なしに、中産階級が主導する政治体制はアリなのか?)というかなり上からの目線で彼がやって来たとき、アメリカの大統領は貧しい家庭出身のジャクソン大統領でした。
トクヴィルはジャクソン大統領のことはそれほど評価しませんでしたがその時にアメリカの各地を見て回り「アメリカのデモクラシー」を発見します。
連邦議会の政治家の水準にはいささか失望気味であったトクヴィルでしたが、タウンシップ(基礎自治体)で出会った名もなき人々の声には驚かされます。
いずれの市民も地域の諸問題をよく理解し、政治的見識と言う点でも見るべきものがあります。(中略)政府の力が弱い分、学校、道路、病院などについても、自分たちの力でお金を集め、あるいはそのための結社(アソシエーション)を設立して事業を進めていく姿にトクヴィルは民主主義の可能性を見出したのです。
(110ページより引用)
これ、アメリカに一度でも住んだことのある人は共感するのではないかなぁ。
国の制度はあまりにもクソったれなのに、個々の人がものすごい素敵な不思議。
別の章でも著者はトクヴィルに結構な字数を割いている(後で知ったけど著者は日本のトクヴィル研究の第一人者らしい)。
トクヴィル君は第一印象が上から目線で悪かった分、途中からその民主主義へのツンデレっぷりに結構好きになってしまうギャップマジック(笑)
現状に満足せず、民主主義というものの実態をとらえようとした歴史上の多くの真面目な研究者や哲学者にきっと誰もが自分の推しキャラを見つけることのできる一冊だと思います。
そして、著者の宇野重規氏もその流れを汲み、今の日本で民主主義を真剣に研究されている研究者なのだという事が胸に落ちる一冊でもありました。
こんな誠実な研究者の推薦を拒否して理由も言わない現政権の反知性っぷりが残念でなりません。
嫌味な言い方をしますが菅首相がお得意の「総合的俯瞰的に」ということの本当の意味をこの一冊は教えてくれます。
読んでないんだろうなぁ。菅さん。