シングルマザーでゼロ歳児を抱えた主人公が「赤ちゃん、お預かりします」の貼り紙を見つけるところから始めるこの作品。
都会の恐ろしい待機児童数を知ってると、まさにファンタジーとしか言えないような冒頭から怒涛に続くスピーディな展開にこんな風に事が運ぶことってある?と思いたくなる。
でも、著者のおいしい物や静かな風情を書く力はとても私の好みで、登場人物それぞれの一筋縄ではいかないキャラクター描写はさすがとしか言いようがない。
結局あんまり違和感なく、気づいたらワクワクしながら主人公と共に一喜一憂させられていた。
もしかしたらこのお話はそんなにファンタジーではないのかもしれないとも思う。
私自身、生まれて三か月で近所の赤の他人のおばちゃんに預かってもらっていた。
先日、そのおばちゃんの弟さんが亡くなった。
この「おっちゃん」も私が小さい頃から何かとお世話になった人だった。
私と同じ年ごろのこどものいた彼は普段は昭和のモーレツ社員だったのだと思う。
でも休みの日には明石焼きを家で焼いて下駄みたいな赤い皿にのせて食べさせてくれた。
私の変な箸の使い方を叱ってくれたのもこのおっちゃんだった。
子どもが生まれてから帰省した時は、退職した後にバイトでいっていた農園で、子どもにあり得ないほど美味しいいちご狩りを堪能させてくれた。
あぁ、人の記憶はこんなにも食べることに繋がっている。
コロナ禍だし家族葬だったので電報をうった。
「小さい頃からたくさんお世話になりました。会いに帰れなくてごめんなさい」
たくさんの電報が届いたけど、この電報を葬儀で読んだとさっき電話したらおばちゃんが言った。
別れを伴いだす年齢に差し掛かり、この週末に弔うように読んだ一冊でした。