こちらも引き続き中村伊作関連。
勢いづいて一気に読了しました。
研究者の方の論文だけあって緻密に当時の社会変革の波や、時代背景、キリスト教や社会主義が西村伊作の建築運動にもたらした影響を調べ上げてくださっています。
この本を読んで自分の勘違いに気づいた。
私は大正デモクラシーの時代が、その名前からして何か明るいものだと思っていた。
けれど貧富の差が拡大し、米騒動が起こるほど物価は高騰し、社会の矛盾が噴き出した時代でもあった。
だからこそ人々は核となる新しい思想や生きる糧となる信仰を求め、社会主義思想やキリスト教が広がっていった。
西村伊作という人物はそういう時代にあって、生活様式や建築、次世代への教育を通して世の中を変えたかった、そしてそれを建築物や学校という進歩的なものに体現させて人々の目の前に展開できる財力と人脈のあった人なんだと思う。
どうして莫大な財産をこういう事業に注ぎ込んだのかを考えたとき、この本で指摘されていた西村伊作の思考回路には驚かされる。
戦前の日本で、いずれ近いうちに私有財産は国家のものになると考え、だからこそ自分で使い道を決められるうちに意味のあることに使う。
それがひいては国のためになると考える。
資産家の屁理屈に思えるかもしれないけれど、同じように自由や民主主義を思い描いた周りの人たちが体制翼賛に流れていく中で「自分で考える」こと「言いたいことは言い続ける」ことをやめなかった彼のスタイルは記憶しておきたい。
伊作が娘にそんな時勢に流される人たちの悪口を書いた手紙にこんな絵がある。
「へげたれ」らしい。
中村伊作、面白い人だ。